Winery
Iyobe met Kondo
最初の醸造は2人とも手探りでしたね
- 伊與部 淑惠
- さっぽろ藤野ワイナリー社長
- 近藤 良介(kondo vineyard 代表)
- さっぽろ藤野ワイナリー 取締役
伊與部
私たちのワイン造りに欠かせない人が近藤良介さん(現・KONDOヴィンヤード代表)です。近藤さんとの出会いがなかったら、今の藤野ワイナリーはありません。私がワイン造りを習いに行っていた小さなワイナリーで出会ったのです。「自分でワインを造りたい」という私の相談に乗ってもらい、手伝ってもらいました。最初に醸造所として借りたのは国道沿いの小さな建物。2009年、狭い狭い醸造所で最初のワインができました。赤と白、両方やってみて「あら、できたじゃない!」。あのときの感動は忘れられません。
国道沿いのプレハブの醸造所、覚えていますか?
近藤
もちろん。とても狭いところでしたね。
伊與部
醸造免許の申請と、設備をつくるのを同時にやって。2009年、初めてのワインができる前ぎりぎりに免許が取れました。使ったブドウはキャンベルとナイアガラ。私が好きで食べていたブドウです。ワイン用のブドウなんて新参者の私たちには買えませんでした。
近藤
今でこそ僕も自分のワイナリーを持っていますが、当時は二人とも手探りでしたね。そもそも昔からワインに関心があった訳ではないですから。
伊與部
私はぶどうは大好きでしたが、ワインに興味があった訳ではありませんでした。ヨーロッパに旅行に行って、石造りのワインのシャトーを見て、こんな素敵なところがあるんだ、という憧れが最初だったかな。
近藤
僕も昔からワインに興味があった訳でもなかったし。
伊與部
二人ともワイン造りを勉強していた。勉強に行っていたワイナリーで初めて近藤さんに出会いました。
近藤
そうでしたね。やりたいことが見つからなかった大学時代、漠然と農業に関わりたいと思って最初に見つけた仕事が歌志内市の職員としての農業研修でした。歌志内に行く前、1年間余市のぶどう栽培農家で研修しました。そこでワイン用ぶどうの栽培をしたのが最初のきっかけです。それまではワインなんて飲んだこともなかった。歌志内に戻り、引続きぶどうの栽培に関わり、栃木県のワイナリーで委託醸造したのが初めてのワイン造りです。2006年にはフランスでの研修に参加、ここで自分でワインを造ろうという思いを強くしました。
伊與部
最初は自分の畑をつくりながら、うちに手伝いに来てくれたんですよね。
近藤
2007年に三笠に自分の土地を持って開墾を始めました。お金もなくて、今後どうなるか全くわからない。そんなとき、藤野ワイナリーで醸造をやらせてもらえたのは本当にラッキーでした。藤野と三笠の往復生活でしたけど、そのチャンスがなかったら今ごろどうなっていたか……(笑)。
伊與部
2009年の最初の1年は試験醸造みたいなものでしたね。それでも最初にワインができたときの感動は忘れません。
近藤
一から十まで自分で関わったワインは初めてで、今考えると素人だったなと思うところもありますが、それなりに「おいしくできたなぁ」と思いましたね。
伊與部
本格的には2年目からですね。うちに寝泊まりしながらやってましたね。2010年という年は気候もよくて、乙部町のシャルドネとメルローが入手できて、これはいいぶどうだった。
近藤
余市からもすばらしいナイアガラとキャンベルが手に入った。本当にいいワインができました。そのときつくったナチュラルスパーククリングのナイアガラにすごくいい評価をいただきました。当時としては珍しい製法だったと思います。ナイアガラなのに甘口じゃない。辛口です。消費者には新鮮なものだったようです。
伊與部
生食用のぶどうでワインを造るっていうのはあまりなじみがなくて、これはヒット商品となりました。宣伝もしていないのに、うわさを聞いた全国のお客さまに求めていただけました。
近藤
実を言うと、甘いぶどうを発酵させて甘いままににしておくには技術と設備がいるんです。それがなかったから必然的に辛口になったというのもあるんですけど。
伊與部
お料理に合うのはやっぱり辛口。そこがよかったのかも。どういうワインを造ろう、みたいな話もよくしましたね。
近藤
やはり採れたぶどうを見て、これをどうしようと考えましたね。素材を見てどうしようか考える。料理みたいなものですね。それから、保存剤としての亜硫酸を入れたくない、ろ過もしたくない、なるべく自然に近い形でやりたいというのは二人の基本方針として共有できました。
伊與部
いわゆる「ナチュール」ですが、それは近藤さんが昔からこだわっていたことですね。体が悪かった弟もいたので、やっぱり体にいいワインができたらいいな、と思いましたね。
近藤
「ナチュール」の定義も難しいんですけど、ひとつ絶対に言えるのは培養酵母を使わないことですね。これは大前提ですね。酸化防止のための亜硫酸は過度に使わない。亜硫酸を使えばワインの品質も安定し、大きく流通させようと思ったら必要な措置ですが、小規模で手の届く範囲で販売できるなら必要ないかな、と。日本には「ナチュール」や「ナチュラル」なワインの規定がないので、はっきりこれという説明ができないんですけど。
伊與部
当時は「ナチュール」という言葉もほとんど聞かなかったですね。完全に少数派でした。2015年に醸造場所を現在のところに移しました。
近藤
そのころには僕の三笠の畑もずいぶんとぶどうが育ってきて、そろそろ独立しようかというタイミングでもあったんですよね。でもなんとなくずるずると関わり続けることになったんですけど(笑)。
伊與部
いや、それは私が残って欲しいお願いしたから。いなければ無理だと思いましたから。いろいろな判断のタイミングでぜひ相談に乗って欲しかった。
近藤
そして現れたのが、僕の「弟子」と言ってもいい浦本くん(浦本忠幸さん)ですね。今はもう彼が中心に醸造を見るようになりました。
伊與部
まだ彼が北大の学生のころでしたね。学生なのにあるワイン会に来てて、少年のような風貌だったんですけど、試飲で彼にワインをついだんですよ。「もうよければストップって言ってね」と言ったんですけど、言わないんですよ(笑)。そしたらある日電話がかかってきて、「ワインを勉強したい」と。
近藤
僕も伊與部さんも、こんな大変でもうからない仕事はやめた方がいいよって、ずいぶん説得したんですけどね(笑)。それでも諦めなくて。結局フランスに半年くらい行って、戻ってきて、まだ大学は残ってたんですけど、学生やりながら僕のところで勉強することになりました。なかなかやめないんで(笑)、ああこいつはやるんだろうな、と思いましたね。大学も卒業して、本格的に関わってもらいました。
伊與部
浦本さんも今後独立する予定なんですけど、うちのワイナリーには欠かせない存在になりました。近藤さんも浦本さんも、優しいワインを造るんですよね。誰にでも愛されるような優しいワイン。私も近藤さんもそんなにお酒が飲める体質ではないけど、味はわかる。毎年ぶどうは違いますから、同じワインはできないけどそれでいいと思ってます。
近藤
ワイン造りでいちばん重要なのはぶどうです。ワインを造っているとぶどうもつくりたくなる。
伊與部
藤野ワイナリーでは自社ぶどうは1割以下くらい。あとは信頼できる農家さんから買わせていただいています。
近藤
ワイン用ぶどうって食べても美味しいですよね。
伊與部
え、そう?シャルドネとかピノは美味しいと思うけど、私は食べるのはやっぱりナイアガラやキャンベルが好き。流行りのシャインマスカットよりも昔ながらのぶどうの方がいい。
近藤
僕はワイン用のぶどうの方が食べても味が濃くて好きです。社長は本当に本当にぶどうがお好きですよね。
伊與部
今でもしょっちゅう食べてます。大好き!
近藤
浦本くんが入ってくれたので、今僕が藤野の現場に関わることが少なくなり、自分の畑に集中できるようになってきました
伊與部
近藤さんのワインの造り方が好きでした。優しい、味がいい、まろやか。性格が出ます。この味を継承していきたいです。これからもよろしくお願いします。
近藤
はい、こちらこそ。